医業承継 成立事例

クリニックの終わり方 ~第3者承継と医業承継バンクマッチングナビ~

個人承継
病院名:コスモス通り心身医療クリニック
エリア:県中医療圏
診療科目:心療内科

コスモス通り心身医療クリニックは、H18年8月に開院し、約15年4ヶ月診療を続け、R3年12月1日に第3者承継(クリニック名はそのまま)をしました。子供、親戚に医師がいないため、第3者承継を考えて、4~5年ほどの準備期間を経て、承継に至りました。

なぜ、第3者承継を考えたかというと、60歳近くなって、もし自分に何かあったら、患者さんが困るだろうと思い、元気なうちに若い先生に引き継ぐのがいいだろうと考えたわけです。 実際、11年前の震災・原発事故の年の夏に、近くの心療内科の先生(60代前半)が急に倒れて亡くなり、閉院になってしまいました。そうなると患者さんは右往左往で、診療情報提供書もないまま当院にも30~40人の患者さんが来ました。また、2年前にはいわきの心療内科の先生 (60代前半)が倒れて、復帰できず閉院になりました。患者数も多かったので、患者さん自身も大変でしたでしょうし、引き受けた近隣の医療機関も大変だったと思います。また私の父が63 歳で胸部大動脈瘤破裂で亡くなり、2歳上の麻酔医である兄が58歳で脳出血で倒れ復帰できず現在もリハビリ中ということもあり、余計自分に何かあったときのことが心配になっていたこともありました。

新患をとらずに、徐々に患者さんを減らし、近隣の医療機関に負担にならない程度に少しずつ紹介していく方法もあったかもしれませんが、多くの患者さんを抱えていましたので、そのように進めるとおそらく10年くらいかかると思われました(2年前大阪の先生からの年賀状に、「10年かけて患者さんを徐々に減らして閉院の準備を進め、やっと去年閉院になりました」とあったのが印象的でした)。このため、先生が替わるだけでそのまま同じ医療機関に通院できる 第3者承継が患者さんにとって一番いいだろうと考えたわけです。

そう考えて、承継してくれる医師を探し始めました。出身大学が東京のため福島県には後輩はほとんどいないので、同窓の後輩にというわけにもいきませんでした。講演会には多く参加していたので、いろいろな若い先生の発表を聞く中で、この先生ならと思い、今の先生、河野 創一先生に相談してみました。河野先生も40歳を過ぎて、ちょうど勤務医を続けるか、開業するか、考えている時期だったので、いいタイミングであったようです。また、一番大事なのが、医療、診療に対するスタンスですが、何度か会い、いろいろ話して、私と同じスタンスということもわかり、これなら、患者さんも違和感なくみてもらえるだろうと思いました。

こうして引き継いでくれる先生が決まったので、承継の1年前ほどから実務的な作業にはいりました。医療法人ではなく個人のクリニックであったので、いったん閉院して、翌日に新しいクリニックを立ち上げることになります。そこで困ったのが、保険診療の継続のことです。 本当に新規であれば、実際の保険診療の1ヶ月程前に保健所、厚生局に開院の申請をして、その月の下旬に医療機関コードが決まり、翌月から保険診療になります。つまり開院の申請から、保険適応まで通常は1ヶ月ほどあり、その間保険診療ができないと患者さんが困ってしまいます。そこで、県医師会に相談したら、医業承継バンクマッチングナビがあるので、そこに登録 して相談して下さいとのことでした。早速登録したら、医師会の方と医療コンサルタントの方が来て下さって、私の疑問に答えてくれました。「遡及」という制度があって、個人のクリニックでも、承継として認められる場合は、遡って保険診療ができるとのことでした。承継の条件としては、2ヶ月くらい常勤として一緒に勤務する、承継後も前医が引き続きサポートするということでした。予め、医師会と厚生局に相談をしておくことも必要と言われました。ということで、R3年12月1日新クリニックの開院で、開院届けも12月1日なのですが、12月下旬に医療機関コードが決まり、それを12月1日から遡及することができ、保険診療ができることになりました。これに備えて、4月になってから、予め郡山保健所と東北厚生局福島支部に連絡し、 12月から承継することを伝えておきました。4月になってからというのは、4月から担当が異動することがあるからです。案の定、保健所のほうは、4月から異動してきた人でした。

また、県医師会の方で、承継にかかる費用(リフォーム、パソコンの入れ替え等)の一部を補助する制度もあることも教えてもらいました。

6月くらいからは、電子カルテ、産業廃棄物、卸、検査会社、日医、セコム、電話、インターネット、ホームページ作成会社、新聞等の業者に引き継ぐための書類の準備等を始めました。 そのほか、自立支援医療と、生活保護のほうも、それぞれ、県中保健所と市役所の生活支援課 に予め相談をして、医療機関コードが決まってから、それを連絡するだけでいいということに なり、新たな診断書等の書類も必要ありませんでした。クリニック名を変えなかったのがよかったのかもしれません。

患者さんに伝えるのは、1ヶ月前の9月からとし、10月から河野先生がきて、10月、11月と 引き継ぎをしました。10月は、私が診察して、河野先生が陪席し、11月は、河野先生が診察をし、 私が陪席するという形をとりました。

12月が近づくにつれ、細かいことでどうしたらいいのかわからないことが出てきました。電 子カルテは、承継でそのまま使えることになっていましたし、処方もそのまま引き継ぐので、 新たに処方を入力する作業はなくなったのですが、傷病名の開始日をどうしたらいいか、疑問 がでてきました。新クリニックは12月1日からですので、傷病名の開始日も12月1日になると すれば、すべての開始日を変更し直さなければいけなくなり、これも大変な作業になります。 たまたま、当時社保のレセプト審査をしていたので、職員に相談してみたら、いろいろ調べて くれて、結局そのまま変更なしでいいということになりました。念のため、レセプトには、12 月1日から承継した旨をコメントとしてつけました。

さらに心配になったのが、オンラインでレセプトを送れるかということでした。オンライン で送るためには、新たなパスワード等必要で、年末年始の休みを挟むので₁月10日までに間に 合うか不安でした。予め必要な書類を社保の方に送って、チェックしてもらい、医療機関コー ドが決まったら、すぐにFAXで正式な書類を送ることで、なんとか₁月10日前に通知が来て 間に合いました。

というわけで、12月1日を迎え、まずは銀行で土地建物の売買をし、次に郡山保健所に行って閉院届と開院届を出し、次に福島市の東北厚生局福島支部に行き同じように閉院届と開院届 を出しまして、ほっとしたところでした。12月₁日は水曜日で、もともと休診日でしたので、 特に新たな休診期間もなく、翌日から新クリニックの診療を始めることができました。私の方 は、その後は、火曜、木曜午後の老 人施設の訪問診療と保健所関係の相 談業務や産業医の仕事を中心に医師 としての仕事を継続しています。

クリニックは始めるより終わるのが難しいし、時間もかかるのかもしれません。患者さんのために、どの ように終わるか、60歳を超えたら考 えてみるのもいいかもしれません。 第3者承継も考え、県医師会の医業承継バンクマッチングナビも有効に活用するのもいいかと思います。