私は今回ご縁があり、須賀川市の地域住民の皆さんと温かい診療所経営をされていた、大高内科院長大高亮彦先生の診療所をお譲りいただきました。
私はこれまで心臓血管外科医として病院勤務をしていました。これまでの医療人生において何の疑問もなく日常の臨床に追われる毎日でした。その中で私の勤務先に手術を沢山したい若き同僚が着任してくれました。元々心臓血管外科として仕事をしていましたが、勤務先の都合もあり、外科、内科のお手伝いをさせていただくことが増え、自分の中で私は心臓血管外科医という気持ちから医師という気持ちが強くなってきました。そんな中、このコロナ禍がやってきました。病院勤務の中、一番感じたことは医療従事者といえども未知のウイルスに対する恐怖心というものはそれぞれ違うもので、当初は勤務先でも全く発熱者やコロナ感染疑いの患者さんを診療すること自体困難でした。私の中で医大に入学したときの気持ちと病院の感染症に対する方針のギャップに疑問を持ち始め、またコロナ感染症の怖さと自分の医師としての人生について深く考える時間が増えてきました。何かしたい、そういう思いが強くなっていた時でした。その頃、福島県の医業承継バンクについてテレビ報道にて知ることができました。さっそく登録してみると須賀川近辺に数件の承継者を募集する物件がありました。自分が承継するとは夢にも思わず、話だけでもお聞きしようと医師会事務局の方々にお会いしました。そこからはとんとん拍子に話が進み大高先生からもお許しいただき、勤務医をしながら、夜間中心の診療所を開設するにいたりました。日中は勤務医、夜間は診療所で発熱者や救急患者さんを診る、そんな開業が₁年ほど続いています。
医業承継バンクによる承継は補助金制度があり、また新規開業で土地建物を取得するのとも違い自分のやりたいことが資金的な面でゆとりがでます。あきらめなくてはならないことが少なく私にはとても穏やかな気持ちで開院当初から診療ができています。
これまで勤務先で私は発熱患者さんを駐車場で診療するなどとても患者さんに失礼な診療をしていました。承継開業で資金の節約と補助金があるため今回は新たに感染症診察室を増築でき通常の患者さんと動線を分け安全な診療ができています。患者さんをきちんと診察室へお迎えすることで失礼のない対応ができます。同時に我々も後ろめたさを感じることなく診療ができています。また当院は現在夜間休日が中心ですので外注検査がなかなかできず院内での血液検査に頼らなくてはいけない問題もありましたが、補助金制度で生化学検査装置なども導入でき完全な新規開業とは違い非常に多くのメリットを感じています。現在もいくつか承継物件が医師会からの登録メールに送られてきます。開業するなら40歳代、なんていうことも聞いていましたが、この制度を利用することで資金面でのメリット、承継するタイミングによっては患者さんがそのまま通院して頂けますのでよりリスクが低く、私のような定年間近な勤務医にも開業独立という可能性がみえてくる良い制度と感じました。今後も福島県は医師の高齢化、後継者不足が続くとの報道もあります。私にもできました、皆さんも一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。最後になりますが、医師会医業承継バンクの伊藤さんをはじめ、コンサルタント会社の方々、私の希望にあった検査機器をこのコロナ禍にあって準備していただいた医療機器会社の担当の方々には心から感謝御礼申し上げます。