福島県医業承継バンクを活用し2022年郡山市に耳鼻科を開業して 2 年が経過しました。医業承継バンクの詳細については県医師会のホームページ等参照いただければと考えますが、端的に申し上げると、県医師会が仲介となり、医院の承継をサポートするもので、承継したい・承継相手を探したい双方がバンクに登録し希望者をマッチングさせるシステムです。今回、僭越ながら私の開業までの経過・開業後を報告させていただきます。
私事ですが、平成20年に福島医大を卒業し、耳鼻咽喉科・頭頸部外科医になり16年目になります。医業承継バンクを利用させていただき、郡山市にありました、えんどう耳鼻咽喉科医を承継し、2022年7月に開業しました。開業する前は福島医大に在籍し、郡山の自宅から片道1 時間程度をかけ通勤していました。
医療関係の家系ではない私は、耳鼻科医になった当初は開業を考えてはいませんでした。そんな私が開業も選択肢として考慮を始めた第一のきっかけは、2016年に新教授の就任です。教授が新任される前に無事に学位を取得していたのである程度自由が効くようになっておりました。研究テーマも変わり、後輩の大学院生が研究の中心になっていき、私自身は臨床がメインとして今後を考えた際、このまま大学の人事で動くか(勤務医を続けるか)、市中病院に出てその後開業するかを考えるようになりました。ちょうどその頃、初期研修 1 年次星総合病院で過ごした際の循環器内科の指導医であった氏家先生から耳鼻科で承継開業に興味がないか、と偶然にもお話をいただきました。氏家先生も承継開業されており、向かいの耳鼻科の先生も承継を検討しているので興味がないかとの話で、その耳鼻科がえんどう耳鼻科でした。今後の進路に悩んでいたので承継開業がどのようなものか話を伺いましたが、その際はまだ耳鼻科医 7年目であり、まだまだ学ぶべき事やりたい事もあり、開業への踏ん切りが付かずお断りしました。その際に門前薬局の方にもし郡山で開業するならお手伝いしますとお声がけいただき、おぼろげであった開業の選択肢が今までより見えた気持ちがありました。
その後大学で勤務を続ける中、2019年末にコロナが発生しました。飛沫感染の影響をもろに受ける耳鼻科医にとって今後どうなるかもわからず、開業は考えられませんでした。2021年4月徐々にコロナへの対処がわかりつつある中、新しい入局員が毎日遅くまで仕事や勉強をしている姿をみて、このままでよいのか、私も何か新しいことを始めたいという気持ちが芽生えつつありました。その年の 7 月に遠藤先生が閉院するけど改めて承継開業の気持ちはないか、今なら県の支援もあるとの話を伺いました。新規開業より敷居が低く、新しいことにチャレンジしたいと考えていた私はすぐに、福島県医業承継バンクに登録し制度を確認し医師会に承継を検討するので是非話を聞きたいと連絡させていただきました。その後遠藤先生に挨拶、クリニック見学のセッティングをしてもらい 2 週間後にはクリニックに伺うことが出来ました。県医師会の対応はとても素早く、丁寧でありました。自分の開業への気持ちが熱いうちにクリニックを見学でき、耳鼻科開業医の状況などの話を伺うことが出来、承継開業を決心することが出来ました。そこからは遠藤先生のコンサルタントとして会計事務所を交えて話が進みました。医師会からコンサルタントの紹介も可能ではありましたが、私は門前薬局の承継開業のチームにお願いし、さらに会計事務所も引き続き利用させていただくこととしたので、私の希望と遠藤先生の希望を、会計事務所を通し確認でき最低限の会話のキャッチボールで済ます事ができ、よりスムーズに話を進めることが出来ました。県医師会の指定の事務所を使用するなどの縛りが無かったのは、大変助かりました。
保健所や厚生局、郡山医師会、銀行への融資依頼などは門前薬局の方たちと伺い、進め方に問題がないか確認しながら承継開業に向け進めて行きました。県医師会には承継の際に確認すべき事項や、必要な手続きなど様々なアドバイスをいただきました。一方で必要以上の書類や手続き、頻回の面談などはなく、進捗状況を報告するのみであり、大学勤務をしていた私にとっては、その距離感がありがたく思いました。
教授をはじめ、医局員からは急に開業を決めたので驚きの声も少なくありませんでしたが、皆が背中を押してくれました。開業を決める当時、私は学位も専門医も、目標にしていた頭頸部癌専門医も取得し、これらをどのように仕事に活かしていくかを考えていました。その中で地域に一人くらい頭頸部癌をみれる耳鼻科医がいれば、総合病院に受診するか悩んでいる患者さんの、第一の窓口になれるのではないか、地域に貢献できるのではないかと考えました。コロナの影響で診療・手術制限などがあり、大学外に新たなやり甲斐を探したのかもしれないと、今では考えます。
えんどう耳鼻科は一度休診し2022年 7 月に再開院することとしたので約 1 年の準備期間がありました。その間に、クリニックの名称やリフォームや電子カルテの導入、ホームページの作成など様々な事を行いました。開業に際しこれほど多くの事を決めないといけないのかと思いつつ、自身が考えるクリニック像に近づけるように医療機器などの選定を行いました。開業を決意し、県医師会の仲介の下、遠藤先生と承継開業の合意を結び、実際に開業するまで約 1 年、あっという間でした。
開院したてはオミクロン株が猛威を振るっている頃でした。発熱者に対してどのように検査対応するかなど、スタッフと相談し、実際に診療を行いながら対応できる様になっていきました。8 月、 9 月と郡山市保健所からの依頼で休日の発熱外来を担当し、スタッフと協力しながら100名近くの発熱者の対応を行いました。それ以降は徐々に患者数も増えていき、当院をかかりつけとして受診いただける様になりました。今となってはあの時期に開業していなければまだ集患に苦労していた可能性もあると感じています。
改めて 2 年間を振り返り思いますが、実際に承継開業をした事で、新規に開業していたらどれほど大変なのだろうと感じます。クリニックの場所の選定から建物のデザインなど最も重要な決定事項から種々の細かい事までゼロから始めることは非常に大変であろうと想像します。また、医業承継を勧める様々な業者やサイトなどがあるのを知っていますが、登録料や成功報酬が非常に高額になるとも聞きます。今回の承継事業は県医師会が行っていますが、そのような経費の負担など生じる事無く、無償で様々の事柄にサポートをしていただけました。本当に承継バンクを活用し開業することが出来た事は恵まれていたと感じます。県医師会には感謝しかありません、この場をお借りして御礼を申し上げます。
最後に、開業医として、今まで経験したことがなかった経営や人事などについても様々な知識が必要であり、経営をする事の楽しさ、大変さを感じて日々過ごしています。これから先も継続して地域医療に貢献できるよう、自分の体調はじめ多くの事に気を配りながら日々の診療に努めていきたいと思います。福島県の医師の先輩方には今後ともご指導お願い申し上げます。乱文ですが最後までお読みいただきありがとうございました。