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医業承継 成立事例

福島県医業承継支援事業を利用し承継開業を行って

閉院後の個人承継
病院名:こしいしクリニック
エリア:会津医療圏
診療科目:内科・外科・消化器内科・肛門外科

会津若松市で、令和3年6月1日に承継開業させて頂きました『こしいしクリニック』の輿石直樹と申します。今回の開業にあたり、福島県医業承継支援事業の一環である『福島県医業 承継バンク』を利用させて頂き、承継開業を行った経験を投稿させて頂きます。

昨今、医療現場では後継者難が大きな問題となっています。元来、医業の承継は、親族が行うことが多かったのでしょうが、診療科の細分化も手伝い、親と異なる診療科のために承継がなされないケースや、子供が医学以外の道に進学し、後継者がいないなど、様々な問題がある事を耳にします。一方、開業希望者が新規にクリニックを立ち上げる場合、土地買収から建屋の建設、医療機器選定、購入にいたる多くの手続きが複雑化し、その資金も急激に高騰している現状があります。このような時代に、後継者難の医院と、開業希望者を結びつけ、開業費用を抑え、低リスクで、実績あるクリニックを使っての開業を実現する医業承継事業は、非常に有意義な事業であると考えます。

私は、30年余りの外科医人生に幕を引き、会津若松市内の医院を承継する決心をしました。 数年前から、外科医の幕引きとして、医師として如何に生きるかを考えていました。特に外科医の場合、体力的に、長時間の手術をこなすことも厳しくなり、徐々に管理職としての職務に重きを置くこととなると思われますが、自分の性格がこの様な生き様に馴染めるとは思えず、可能であるなら、患者さんの近くで様々な悩みを聞ける開業医の道に舵を切ることが、医師としての総仕上げには理想ではないかと思い始めました。しかし、年齢的には、多くの融資を受け、ゼロから事業を始める事には、様々なリスクがあり、現実的とは思えませんでした。その頃、偶然にも、医業承継の成功事例の記事を見かけ、低リスクでの開業として、上手い方法であるとは感じました。インターネットを頼りに、承継開業の情報を収集しましたが、得られる情報は大都市圏のものがほとんどで、福島県における情報は皆無の状態でした。また、承継開業のノウハウを含めた細かい情報を得るためには、これらの情報サイトに、こちらの個人情報を登録する必要があり、様々なリスクや煩わしさを考えると抵抗を強く感じてしまうのが実際でした。
暫くし、会津若松市内で消化器内科の医院が廃業したことを知り、ここを利用させて頂き、承継開業が出来ないかと真剣に考え始める事となりました。交渉を始める前に、事前の準備として様々な情報を集め、これら集めた情報をもとに、承継開業の手続きや高齢者開業のリスクなどを踏まえ可能な限り具体的なシミュレーションを行い、自分の意思が固まった時点で、当時の勤務先である竹田綜合病院の院長に開業の意向と辞意を伝えました。開業後も病診連携でお世話になる病院であり、私の場合、肛門疾患の治療で開放病床の利用を考えている病院ですので、円満に送り出して頂くことが不可欠でした。多少時間がかかりましたが、こちらの熱意が伝わり快諾を頂ける事が出来ました。その後、承継開業に向け、守秘義務契約締結後に、前医の診療実績などを提供して頂き、承継開業に向けての具体的なイメージを描きつつ、準備に入る事が出来ました。また、承継開業には、様々な形態があり、多くの事柄を決めなければなりませんでした。例えば医院の建屋に関し、譲渡か賃貸か、前医の医療機器や什器類に関して譲渡を受けるかなど様々です。これらを決定した後に、承継開業に関する契約を行い、事業として本格的に動き始める事となりました。並行して、事業計画を立案し、スタッフ数を確定し、募集を始めました。また、新規導入の医療機器など、様々な購入物品を選定し、融資の手続きも開始しました。この様に多くの事を決定し、様々な手続きを短期間に行う必要があるのですが、円滑に行う事が出来たのは、今回の承継開業に関わって下さった様々な方々のご努力によるものと考えます。特に、仲介業者などが関わらず、『福島県医業承継バンク』を媒介として協議する事で、関係者が直接話し合える環境を構築できたことが良い方向に作用したと思われます。

承継開業を経験し、承継開業によって得られる沢山の長所を感じる事が出来ました。今後、院開業を目指す方にお勧めできる点としては、前医の実績を引き継げる事が挙げられます。前医と診療科や扱う疾患が類似していれば、患者さんの情報や医療機器が引き継げる可能性があります。特に、患者さんの情報に関しては、いわゆる集客情報となりますが、ゼロから積み上げる新規開業に比べ、前医の実績を引き継げる事は強い武器であると思われます。また、医療機器などに関して、全てを新規購入する場合の費用は膨大な金額となります。これらの初期投資を、ある程度、抑えられることは経営に対するリスクの軽減に繋がり、気持ちの上でも余裕が持って開業に臨めると思えます。更に、前医に関わった関係者からの協力が得られることが多く、円滑な開業準備に繋がると思われます。逆にデメリットに関してですが、私の場合は、特にありませんでした。強いて挙げるなら、前院長あるいは前医と比較されることが多いと言う事です。前医院長は偉大な先輩医師であり、私は全く苦にはなりませんが、気にされる方は 注意が必要と思われます。承継開業し約10か月が経過し、経営は、まだ苦しいと言わざるを得ませんが、前医から引き継がせて頂いた患者さんにも沢山いらして頂き、少しずつ『こしいしクリニック』の形が出来つつあると感じています、2年後には還暦を迎える年齢で新たなチャレンジが出来たのは、承 継開業が出来たからに他なりません。

最後に、福島県医業承継支援事業の『福島県医業承継バンク』を利用して感じた事ですが、 医療資源の有効活用を目的として、様々な情報を気軽に得ることが可能なシステムであると思われます。営利目的で行われている医業承継と異なり、無料で様々な相談ができることは、大きなメリットとなり、高齢化、過疎化が進む地域医療の現場で、開業のハードルを下げる事が期待できます。今後、益々、活発に利用され、承継開業が推進されることを期待して止みません。
最後に、私の様な者を、ここまで導いて下さった多くの関係者各位のご尽力に心から感謝を申し上げ、稿を終えます。